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2025.03.06

1to1マーケティングの注意点

ユーザー一人ひとりのニーズや悩み、状況にマッチしたアプローチを行うには、1to1マーケティングが効果的です。しかし、漠然と実施すると運用工数ばかりかかってしまい、思うような成果を得られません。成功させるには、実施の対象母数を確保しつつ運用工数を軽減する工夫が必要です。

本稿では、1to1マーケティングの注意点や成功のポイントを解説します。

※本テーマについては動画でも詳しく解説しています。

1to1マーケティングとは?

1to1マーケティングにはさまざまな定義があります。例えば、Salesforceではこのように紹介しています。

「One to Oneマーケティングとは、消費者ひとりひとりの購買傾向からニーズを読み取り、個々に対して最適なコミュニケーションを行うマーケティング活動を指します。」(出展:Salesforce『One to Oneマーケティングとは?具体的手法と成功事例』)

全員に同じメッセージを送るのではなく、ユーザー一人ひとりの嗜好性に合わせて「適切なタイミングで・適切なチャネルで・適切な内容を届ける」という考え方です。

概念自体は素晴らしいが鵜呑みにすると失敗する

ユーザーにマッチしたアプローチを行う1to1マーケティングは素晴らしい概念です。しかし、概念を鵜呑みにして実行すると、大きな失敗を引き起こします。

主な失敗要因は、以下の2つです。

1.「施策を実施すること」が目的になっている

2.効果を見込んだ設計になっていない

1.「施策を実施すること」が目的になっている

マーケティング部署の管理職など、あまり現場感を持たない人が1to1マーケティングを主導すると、目標のビジネス成果を整理しないまま「とりあえず施策に取り組む」という状態になりがちです。その結果、具体的な成果を検証できないこともあります。

1to1マーケティングは、あくまでも自社の目的(マーケティングツールを活用して成果を出したい等)を達成する「手段」であるため、実行して満足しないよう注意しましょう。

2.効果を見込んだ設計になっていない

1to1マーケティングは、かなり精密に設計しないと数字的効果が下がることがあります。

数字的効果が下がる要因は、主に以下の通りです。

・施策の母数自体が減ってしまう

・運用工数がかかってしまう

施策の母数自体が減ってしまう

1to1マーケティングは、ユーザー一人ひとりの嗜好性に合わせ最適なコンテンツを届ける施策です。

以下のように行動データや属性データを絞り込み、「条件に合致するユーザーにのみ」コンテンツを届けます。

上記のようにセグメントを切っていくと、施策を届けられる対象母数は減少します。例えば全体が「100万人」であっても、セグメントを切っていくと最終的な条件に合致するユーザーは「5,000人になる」というイメージです。

それでは上記の数値を使って、以下2パターンをシミュレーションしましょう。

①全配信施策(全ユーザーへ商品をオススメする)対象100万人×開封率5%×Click率1%×購入率0.5%
②1to1マーケティング施策(商品が好まれるであろうユーザーに絞ってオススメする)対象5,000人×開封率25%×Click率5%×購入率2.5%

上記の1to1マーケティング施策では、「実施対象は減るが効果の向上を期待できる」という想定のもと、すべての変数を5倍で計算しています。

このシミュレーションでは各CVが「全配信施策は2.5」「1to1マーケティング施策は1.56」となり、1to1マーケティング施策が負けます。確かにコミュニケーションを個別化(1to1)すれば、反応率は上がるでしょう。しかし、施策の対象数自体が少ないため、最終的なゴールであるCV数は減少するのです。

そもそも実際の1to1マーケティングでは、数字が改善されたとしても、いきなり5倍になることはほとんどありません。

このように1to1マーケティングは、扱いの難しさもあり数字的効果は下がりがちです。

運用工数がかかってしまう

1to1マーケティングでは、顧客情報をセグメント分けしてデータを分析し、ユーザーにマッチした施策を設計するため、大きな運用工数がかかります。とくに「エンドユーザーへ素晴らしい体験を提供したい」と思うほど、工数は膨らむでしょう。

また、施策を実行するマーケターとしては、ユーザーの体験向上だけでなく「どのように成果を獲得するのか?」という点も確認したいはずです。

そのため、運用工数とのバランスを見ながら「どのように効果測定ができる体制を整えていくか」という点も、重要なチェックポイントになります。

施策を成功させるコツは「対象母数を減らさない」

上記の失敗を減らし、1to1マーケティング施策を成功させるには「施策の対象母数を減らさないこと」が大切です。具体的には、A施策・B施策・C施策……というように数多くの施策を作り、この施策の合計数で母数を担保しましょう。

例えば、以下のようなイメージです。

上記のように複数の施策を実行し、それぞれで人数を確保することで、全体の母数を担保して本当に成果に基づく1to1マーケティング施策を実現できます。

ただし、実行・管理・メンテナンスに工数がかかるため、「本当にリソースを投下してまで実行すべきか?」という点は検討が必須です。

施策の成功確率を高める3つのポイント

対象母数を担保しつつ工数を減らして施策を成功させるには、以下3つのポイントを意識しましょう。

1.自社の状況にマッチしたベストな粒度のセグメントを設定する

2.施策の順番を間違えない

3.セグメントを切るためのデータを正しく保持する

1.自社の状況にマッチしたベストな粒度のセグメントを設定する

セグメントを一切使わず、全体を対象にした施策ばかり実行することは避けるべきです。とはいえ、1to1にこだわり個別化しすぎると、対象数の減少や運用工数の増大といった問題に直面します。

そのため、「全体でもなく個別化でもなくちょうどよい部分」を掴み、自社の運用でカバーできるベストな粒度で実施することが大切です。

2.施策の順番を間違えない

本来、1to1マーケティングのようなセグメントが細かい施策は、かなり後工程で実行するものです。

そのため、まずは全体の広い対象へ施策を実行し「そもそも施策に効果があるのか?」「1to1まで細かく粒度を設計する価値はあるか?」 を検証しましょう。

上記を検証し「効果がある」とわかった段階で、次のステップでセグメントを細かく切って施策を実行し、その結果が1to1マーケティングになっていることが理想です。

3.セグメントを切るためのデータを正しく保持する

セグメントを切って1to1マーケティングを行う場合、Webサイトの閲覧履歴や購買履歴などの「行動データ」やユーザーの嗜好性がわかる「属性データ」を事前に取得し、正しくマーケティングに使える状態で保持することが必要です。

そのため、今後1to1マーケティングを実行する構想があるなら、自社の目的を踏まえつつ「どういう情報が必要か?」「どのように保管しておくべきか?」を整理しましょう。

対象を母数を確保し1to1マーケティングを成功させよう

1to1マーケティングとは、各ユーザーの購買傾向に合わせ「適切なタイミングで・適切なチャネルで・適切なコンテンツを」届けることです。ユーザーからの反応率アップが見込めますが、施策の実行自体が目的になったり効果を見込んだ設計になっていなかったりすると、失敗の原因になります。

1to1マーケティング施策を成功させたいのであれば、「自社にベストな粒度のセグメントを設定する」「正しい順番で施策を実行する」といったポイントを意識し、対象母数を確保しましょう。

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